マーチは雷雨の中走っていた。家は廃車置き場の向こうだった。嫌でも前を通らなければならない。レインコートを着ているにも関わらず頬から雨粒が滴る。
近くに雷が落ちた。けたたましい音が鳴り響き、一瞬だけ真昼のように明るくなった。
「うわっ」
さすがにマーチは驚いて、逃げるように走る。雷もまた追いかけるようにひとつ落ちる。
あまりにおっかないので廃車に逃げ込んだ。
後部座席に急いで入ると、マーチはぼとぼとに濡れたレインコートを脱いで後ろの荷台に入れ、そこから大きなタオルを引っ張り出した。
レインコートは豪雨に歯が立たず、髪までびしょ濡れになっていた。がしがし拭きながら横目で、座椅子の上で体育座りをして伏せているリリィを見た。
リリィはマーチよりずっと濡れている。
マーチはもう1枚タオルを取り出してリリィに被せた。