足音は、部屋の前で止まった。
警備員に嗅ぎつけられたか、それとも…まさか、タックが?
バカな、あの自己中女が、この部屋に何の用があるっていうんだ?
第一、あれだけの警備員を相手に無事でいられる筈は無い。
しかし、もしアイツが捕まったなら、俺の存在を喋ったかも知れない。
アイツには侵入する事は打ち明けなかったが、警備員に仲間がいる、とは話した。
そして今俺は見事に、警備員の制服を着ている。
俺は足音の主を、俺の侵入に気づいた警備員と決めつけ、身構える。
「もー、先輩がゲームなんかに誘うから、不審者がどっか行っちゃったじゃないですか!」
「ノリノリだったくせに何言ってんの」
「いーえ!ちゃんと反対しました!」
「ハイハイ、口だけは、ね。じゃあ見つからない事だし、もう一試合やろうか」
「全然反省してないですね、先輩」
「君もね」
…何だ、ニャンニャンじゃなかったのか。
紛らわしい。
どうやらこの部屋に来る事は無さそうだ。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
張りつめた空気が元に戻った所で、冷静さを取り戻したチェルシーが俺に詰め寄る。
「説明して。どうして彼は…」
バキッ ドゴッ
「せ…先ぱ…い…」
ガスッ
「ぐあああぁ!」
…廊下で、不審な物音がした。
俺の全身を、冷や汗が伝う。何故だろう。
成金趣味丸出しの、派手な扉が、ゆっくりと――――開く。
カツン カツン
扉をくぐって入って来たのは、髪の長い少女だった。
が、ずる、と、その頭が突然地面に落ちてしまった。
しかし心配は要らない。落ちたのはカツラだった。
依然首は肩の上に載っている。
ザンバラ頭の、血みどろの顔が。
その口元が、ニィ、とつり上げられる。
「よォ、相棒。こんな所で何してンだ?」
タックは、やけにニコニコと近づいて来た。俺の本能が警鐘を鳴らす。いつからこの話はホラーになったんだ?
「タック、良かった、今から助けに行こうと…」
ゴ。
「るっっっっっっせぇンだよ!!!!
服が!!メチャクチャになっちまっただろーが!!!」
俺は今、脳みそがグチャグチャになったかと思ったのですが。