紅の目は自然と妙を追っていた。
そういえば以前に比べ妙が綺麗になった気がする。
頬はうっすらと紅をまとい腰つきや、ちょっとした仕草に女の色香がみえる。
当の妙は紅に見られているのに気付かず帳場の掃除をしている。
妙が連二郎と?
あの簪を拾い、あの時の妙のあの反応。明け方聞いた下駄の音。どう考えても妙と連二郎は通じ合っている。
何度考えても答えはそこに行き着いた。
それと同時に紅の心はますます締め付けられ、妙に苛立ちさえ覚える自分に嫌気がさしていた。
別に妙と連二郎がどうなろうと私には関係の無いことなのにどうして胸が痛むんだろう。
いっそ妙に連二郎との仲を聞いてみようかとも考えたが聞いてみたところで通じ合っている事がはっきりすれば自分がどうなるか怖くて聞けなかった。
「ちょっと出掛けてくる」
妙の姿を見ているのが何だか辛くて紅は外に出た。
2、3歩後ろを連二郎が付いてくるのを紅は腹ただしく思った。
連二郎も連二郎よ。どうせなら妙でなく他の女と付き合えばいいのに。
紅は一人になりたくて連二郎を巻こうと入り組んだ道を適当に歩いた。
しばらく歩くと見覚えのある場所に出た。
そこは、健吾と始めて口をきいたあの橋の前だった。
あの時、声をかけなければお互いすれ違ったままだったかも…。
ふっと橋の向こう側から 視線を感じて顔を向けた
一瞬、それが誰かということが解らなかった。
薄汚れ、髪と髭は伸び放題。着ているものもかろうじて身体を隠している程度の、しかしそれは紛れも無く紅の夫
「健吾さん…?」
紅の問いかけにビクッと身体を強張らせ逃げるように橋の向こうにいった。
「健吾さん!」
橋に向かって健吾を追いかけようとする紅の腕を連二郎が掴む。
「離して、見えなくなっちゃう」
健吾は何度か振り返り消えていった。
「お前みたいな女、あっちに渡ったらすぐ脱がされ廻されちまうよ」
紅は連二郎の掴んだ腕が熱くてドキドキして振りほどいた。
「あれ、旦那か?」
連二郎の問いに
「たぶん、そうだと思う。すっかり変わってしまっていたけど。向こうにいたなんて噂にもならないはずだわ」