橋の向こうは通称どぶ板通り。無法遅滞でよく堀に死体が浮かぶときは大体が向こうの人間だ。お金の無い日雇い人夫などが女を買いに行くが病気持ちの女が多く性病をうつされる。また、柄の悪い連中がのさばり治安も
悪くまともな者は近寄る事はしなかった。ただ、身を隠すとなれば誰も詮索しないので安全だろう。
紅と連二郎はとりあえず近くの茶屋に入り、落ち着く事にした。
「小物屋を売ったお金が結構あったと思うのだけどなんでまた吉原のあんなところに…」
湯気の立つ熱いお茶で両手を温めながら紅はつぶやいた。
「気になるなら向こうに何人か知り合いもいるし調べてもいいぜ」
そう言う連二郎に紅はお願いすることにした。
「しかしなんだな。以外と身近にいたもんだな。まぁ、よかった…、よくないのか? まぁ、どっちにしろ…」
そこで連二郎の言葉が詰まる。
紅が連二郎の顔を見ると少し困った照れたような顔をしている。
「だめだ。何を言っても慰めにならねぇな」
紅は笑った。
「連二郎でもそういう顔するのね。いつも澄ましてばかりだから」
「まぁ、辛くなったらいつでも来な。抱いて慰めてやるから」
その言葉に紅の心は高鳴ったが、すぐに妙の顔が脳裏に浮かぶ。
「私は大丈夫よ。それより妙の事泣かせないでよ」
そう言い連二郎の顔をまともに見ることが出来ず紅は茶屋を一人で出た。
すぐ後を連二郎が追いかけてくる。紅の肩に手を置き捕まえる。
「待てよ。妙って何だよ?」
紅は顔が赤くなるのがわかり、連二郎を見ることが出来なかった。
「知らないと思ってるの?妙と通じ合っているんでしょ? 」
思ったより大きな声に紅自信驚いた。
「お前、ひょっとしてやきもち妬いてんのか? お前、俺に…?」
その言葉に紅の顔はますます赤くなり目から涙も溢れ出る。
その涙をみて連二郎は慌てて人影のまばらな路地裏に紅を引っ張りこんだ。
「泣くなよ。おい」
連二郎は紅を強く抱きしめた。
「離して、離しなさい」
紅が連二郎の腕の中でいくらもがこうとその腕の中から抜け出すことは出来なかった。
「嫌だ、離さない。手に入らないと諦めていた女が手に入りそうなんだ」