「生きてるって、楽しいか?」
白い。窓に掛けられ、陽光を透かす薄手のカーテンも。清潔に輝く真新しい天井も。ベッドもシーツも壁もチェストも、僕の視界に写る全てが、白い。だからだろうか。掛けられた言葉が、いやに白々しく聞こえるのは。一笑に付そうとして失敗し、は、と引き攣った笑い声が口から零れた。僅かに、冷笑の気配。……いいさ。幾らでも笑えば。
「言いたいことが分からないな」
「色んな制約があって、色んな事に縛られて。なんにも自由に出来ないそんな人生に、価値は有るのかって事」
「分からないって言ってるんだよ、僕は。言いたいことが有るならはっきり言ってよ」
「まぁ、つまりアレだ」
くつくつと喉が鳴る音が聞こえた。可笑しくて堪らないのだろう。隠しきれない愉悦を声に滲ませて、海潮は僕に告げる。
「何が楽しくてまたベッドなんかに縛り付けられてるんだ、ってコト」
「今度は君も一緒だろ海潮!!」
「いや、俺誰かさんと違って寝てるだけだし」
「ノー。ノー、変わらナーイ」
「いきなり口調が胡散臭ぇ!?」
「折角痛む身体引きずって助けに行ってやったのに! この恩知らず!」
「それ今関係ねぇ!?」
杏華と別れた後(捨てられたとも言う)体力の回復を待って自力で海潮回収して山を下りたんだけど、その時にはもう“壁”は存在していなかった。疑問に思いながらも先輩に連絡し、拾ってもらったんだけど。
……何故か先輩、山から下りて来たなぁ……。
別動隊(一人だけど)として動いていたのか。
とまれ、先輩の知り合いらしきグラサンマスクの超怪しい人の車で運ばれ、先輩の家で治療。……なんだか、身に覚えがある顛末である。
「こうやって同じようなことを繰り返しているのは、怪奇現象のせいではないでせうか」
「違うだろ」
「折角の快気祝いだったのにまたベッドの上に叩き返されるなんて」
「同情するぜ」
まぁ、今回はまだ傷が浅かったから良いんだけど。
「あとなんか新薬投与されたしねぇ。ESジェルだっけか」
「何かあったら訴えてやる。で、それどういうものなんだ?」
「“ぶっちゃけ癌細胞みたいな物”だって。或いは“スライムを体の中に飼うみたいな代物”」
「畜生! 今すぐ訴えてやる!!」
「まあまあ」
しかし、杏華、か。
……また会えると良いな。