タックの格好は酷いものだった。
手元を中心に、全身血まみれ。顔にもしぶきがとんでいる。
スカートも足の付け根まで無惨に破かれている。
胸元も、中が見えてしまうくらい大きく引き裂かれてしまっていた。
芝居の為に詰めたパットはそこに無く、小さな膨らみがチラッと見え隠れする。
どう言う事だ?コイツ、ヤられかけたのか?
「タック、お前…」
殴られた後は見当たらないが、よく見ると、彼女の眼が潤んでいる。
よほど恐い思いをしたらしい。
俺は彼女に同情を禁じえなかった。
「……可哀想な胸だな」
俺の最低な発言に、すかさず二発目の拳が飛んでくる。
内臓、口からでそう。
一発目の時から感じてたんだが、コイツ手に何かはめてないか?
「誰なの?」
置いてけぼりを食っていたチェルシーが、突然の乱入者について尋ねた。
「コイツは、あー…」「関係ねぇだろ。つかテメェこそなんだよ」「テメッ…」
「あー、タック、この人俺の義姉さん」
その言葉に、タックが眉をしかめる。
「ネエサン?」
彼女は俺の言った単語を繰り返した。その言葉の意味する所を、ゆっくりと咀嚼するように。
そして、コクコクと頷きながらチェルシーをしっかりと観察する。頭の悪いヤツだと思っていたが、この部屋を見つけた事といい、存外カンがいいのだろうか。
これで、俺が彼女を利用していた事も、その理由も、全てバレてしまった。
「似てねぇ」
いや、バレてない。
「何でお前のネエちゃんがここにいるんだ?てか金庫は?」
ねぇよ。
てかまだ探してたのかよ。
という本音は言わない。無用な争いは起こさない。
「ここには無い。どうやら、別の場所に移されたみたいなんだ。
危険な目に遭わせたのに、悪い」
俺はタックに自分のミスを侘びた。
本当のミスは、今コイツがここにいる事だが。
事態を収拾させるには多少の方便も必要…
「どこだ?」
「はい?」
「き・ん・こ!」
諦めない。どうしよう。
「女の子がそんな、一文字変えるとアレになっちゃうような言葉、大声で言っちゃダメ。おネェサン濡れちゃうじゃない」
女として最低の発言をしたチェルシーが、俺にウィンクしてくる。
いえ、フォローになってないから。