「テメェが儲かるっつったから話に乗ってやったんだろーが!」
「金庫じゃなくても、金目の物くらいあるだろ?」
俺達は不毛な言い争いを続けていた。
そんな場合じゃないのに。
「ねぇ、イかせてくれるんじやなかったの?」
タックに殴られそうになっていた俺を、チェルシーがぐい、と引き寄せた。
「その誤解する言い方止めてくれない?」
俺はそう言ってチェルシーを引き剥がす。
と、タックを見ると、完全に引いてしまっている。
「変態姉弟…」
ああそうか、コイツは俺達を実の姉弟だと思ってたんだった。
まぁいい。良くないけど今はいい。
「じゃあチェルシー、俺と一緒に来るんだな?」
チェルシーはたおやかに笑み、俺の耳に唇を寄せる。
「その前に一つだけ聞いてもいいかしら?
どうして私を助けに来たの?
やっぱり、あの事があったから?」
…
「アンタが俺なんかに惚れないってのはわかってた。
俺はただ、アンタみたいなイイ女と寝たがる男はごまんと居るのに、あんな成金オヤジに独占されてるのが我慢ならなかっただけさ」
…決まった。
じぃん、と余韻にひたる。
しぃん。
?
あれ?二人とも?
「金庫はねー、こっちよ。一階の壁の中にあるの。
本館には本館で別の金庫があるんだけどね。アイツ、ケチだから財産分けてしまってるの」
「マジで!?何でンな事知ってンだ?」
「フフ、一年もいるとねー、わかっちゃうモノなのよ」
「スゲェ!お供シマス!アネゴ!…」
ふっといてソレってどうなんだよ?
そんなに長い話でも無かったっしょ?
俺は、俺を置き去りにして出て行く二人を見送った。
…じゃなくて。追いかけないと。
俺は、扉の前に転がる警備員(多分先輩の方)につまづきながら、部屋を後にした。
そして、部屋に残されたのは、チェルシーの口紅のついた、吸いさしの煙草が一本。