ヤスから二人の住んでる場所を聞いて連二郎は小屋をでた。
二人の住んでる場所はどぶ板通りのさらに奥にあった。
「ここか…」
小屋の前に立つと気配を感じたのか中から女の声がする。
「開いてるよ」
連二郎が小屋の中をのぞくと地べたにムシロをひいた粗末な中に女が一人裸同然で横たわっていた。
「あんた、いい男だね。こんなところに女買いに来なくてもよってくるだろう」
鶴は少し身体を起こして髪を整える仕草をする。
「まあ、いいさ。抱くなら抱いていきなよ。あんたならいい値でいいよ」
鶴は股を広げ連二郎を誘った。
「悪いが俺は客じゃない。旦那はいるかい?」
健吾の事を聞かれ鶴の顔色が変わる。
「あんた誰だい?」
「俺は連二郎。紅華楼でまぁ、用心棒をしている」
紅華楼と聞いて鶴の顔が青ざめる。
「紅の所? 健吾さんを取り返しに来たんだね。健吾さんは渡さないよ。もう、私の物なんだ。帰っとくれ」
最後の方は言葉を荒げて鶴は叫んだ。
「落ち着きな。連れ戻しに来たわけじゃあない。旦那に籍だけ抜いてもらえりゃあいいんだ」
「そんな事言ったって私は騙されないよ。紅は健吾さんを連れ戻して…そんなの許さない。私を一人ここに残して幸せになろうなんて。許さない」
鶴の眼に狂気が走る。
駄目だ。話しにならない。
連二郎は小屋から外に出た。
どんっと背中に何かがぶつかる。振り返ると鶴だった。
その瞬間、脇腹に痛みが走る。鶴の手に目を向けると包丁が握られ手が紅く染まっている。
「渡さないよ。健吾さんは私のだ。紅には渡さない」
鶴は包丁をもったままその場に座り込む。
「女だと思って油断しちまった」
そういい脇腹の出血場所を見る。傷は深くなさそうだ。
連二郎は持っていた日本手ぬぐいを傷に当て歩き出した。
「参ったな。あいつの泣き顔は見たかないんだがな…」
裏木戸を開け台所の勝手口から血まみれの連二郎が入って来たのに始めに気がついたのは妙だった。
「連二郎さん!!」
妙は急いで紅に知らせに走る。
紅は医者を呼ぶよういい、男衆に連二郎を離れに運ばせた。
「こりゃあ酷い。脇腹と前からも深く刺されてる」