傷の確認に着物を開くと辺りは紅く染まった。
「どうして…」
医者が駆け付けみんなを部屋の外にだし傷の手当をする。
連二郎の呻き声が襖越しに紅の耳に入る。
「誰がいったい…」
鶴と健吾の顔が浮かぶが連二郎が刺される理由がない。物取りか? いや、連二郎ほど強い男がこうも簡単に刺されるわけがない。
ともかく助かって欲しい、紅は願った。
かなりの時間医者は出てこなかった。襖が開いたとき紅は真っ先に医者に詰め寄った。
「傷は何とか縫い合わせたが、かなり血が出たんでな。後は本人の体力と気力、それと手厚い看病だな。また明日くる」
紅は連二郎の側に座る。血の気の無い青白い顔を苦痛に歪める。
「連二郎さん。わかる?紅がわかる?」
涙がぽたぽたと畳みの上に落ちていく。
紅は連二郎の手を取り両手でにぎりしめる。
その夜、紅は一人朝まで連二郎の看病をした。
朝も遅くなって紅は母屋に顔を出した。
連二郎に精のつくものを汁にして飲ませようとしていた。
母屋に近づくにつれ何だか騒がしい。
「何かあったの?」
帳場をのぞくと妙が頬を押さえ倒れ、一人の男が立っている。
「妙!健吾さ…ん?」
髪も髭も整え、仕立てあがった洋服を着た健吾がそこにいた。
「御主人のお帰りに何を驚いた顔をしているんだ?紅?」
あまりに堂々とした健吾の姿に紅は違和感を覚えた。
「妙を?叩いたの?どうして妙を…」
妙と健吾を見比べ妙に駆け寄ろうとする紅の腕を健吾は掴む。
「女中の分際で主に出ていけと言うものでね。罰を与えたまでさ。それよりも…」
健吾はまじまじと紅を見た
「僕が留守中、随分と艶やかになって。男でも作ったのかい?君がまさかあんなチンピラ上がりの男が趣味なんて。道理で私を毛嫌いするはずだ」
「!!」
紅は健吾の顔を見る。知っている?連二郎を?
「貴方なの?連二郎を刺したのは?」
紅は腕を掴まれながら健吾に抵抗するが、男の力にはかなわなかった。
「知らないよ。そんな名前の男。とにかく、僕はここの主なんだから逆らわない様にね。」
まだ男尊女卑の残る時代。家を出たとはいえ、籍の抜けていないかぎり健吾は紅華楼の主に違いなかった。