健吾はすっかり変わっていた。人の良いお坊ちゃんから暴力的で狡猾な男に。
「紅、すまなかったね。僕の留守中淋しい想いをさせて。これから大丈夫。悪い虫はみんな僕が退治するから」
優しく紅の頭を撫でる。が紅は嫌悪した。
「ねえ、鶴はどうしたの？」
紅の問いに健吾は
「あぁ、お義母さんかい？今頃沢山の男達と楽しくやっているよ」
と冷たく微笑んだ。
「ところで、離れには誰がいるんだい？ 明かりがずっと点いていたけど？」
突然離れの話しを持ち出されて紅は動揺した。
「別に…誰もいな…」
そう言ったとたん紅の頬に平手が飛ぶ。紅は床に倒れ込んだ。
「紅お嬢さん！」
駆け寄ろうとした妙を健吾は蹴り倒す。
「た…妙…」
健吾の目が光る。
「まさか、男でも連れ込んでるんじゃあないよね？」
どうする。と考えたその時、あやめの声が帳場に聞こえる。
「旦那、離れにいるのは私のお客ですよ。長逗留するってんで離れをお借りました。もともとその為に造った離れですからよろしいかと」
あやめが紅を起こす手を貸す。
紅はあやめの手を強く握って立ち上がる。
立ち上がる瞬間あやめは小声で紅にささやく。
−連二郎はまかせておきな−
その言葉に紅は落ち着きを取り戻す。
「そうなの。とある名のある方で人に顔を見られるのを嫌がるので私も今さっき襖越しに挨拶をしてきたばかりで。健吾さんのお留守の間に勝手に使ってしまってごめんなさいね。それで言い出せなくて」
紅は健吾に悟られぬ様媚びる様に話す。健吾は暴力で紅が自分に服従したと思ったのか気分をよくした。
「なに、いいんだよ。もともと今晩から紅と寝床を共にしようと思っていたし。いつまでも主が離れなのはおかしいしね」
その言葉に紅は身震いした。
この男に抱かれる？それは嫌だ。だか、連二郎の傷が癒えるまでどうにかやり過ごす手立ても無い。
紅はその場に崩れ落ちた。
目を覚ますと紅の部屋で妙が心配そうに紅を見ていた。
「妙。大丈夫だった？」
妙の頬は少し赤く腫れていた。
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