『え……?』
夏子は聞き返した。
『結婚したいと思う子がいるんです……僕の忘れられない人です』
夏子は頭の中が真っ白になって言葉が出なかった。何をしゃべったらいいのか分からなかった。
『あっごめん夏子さん。そんな悩み聞かれても困るよな』
『いや…そうじゃないの。智明くんはそういう事は全く考えてないと思ってたから…その子の事もっとくわしく教えてよ。』
智明は真剣な顔をして話した。『その子と僕は幼なじみなんです。僕も彼女の事はよく知ってるし彼女も僕の事はよく知り尽くしてる。そしてその子は僕の初恋の人です。』
夏子は胸が苦しくなった。分かってはいた事だがやはりこれほどに苦しいものとは思っていなかった。
全然そんな悩みをもってるようには見えなかったし智明とそんなに親しかった女性がいた。それさえ知らず洒落っ気してヘラヘラしながら「エレガント」へ行く自分が恥ずかしかった。
ふたりには自分が知らない思い出もあるだろう。
ふたりだけの思い出もあるだろう。
そう思うとさらに胸は引き裂かれそうに苦しくなったのだった。