細かな肉片へと化した男を視て呟き、はたと何かに気が付いたように「あ」と声を漏らした。見開いた目、すぐにしまったと云う風に眇られ、
「あー、聞くこと有ったのに。まいった」
頭を掻く。顎に手を当てるのと、開いた手の指先で宙を掻き回すのは思考するときの癖なのだろうか。暫くその所作を伴った思考を続け、やがて諦めたかのように表情を崩し、顎に当てていた手を下ろす。嘆息し、「まぁいいか」と呟く。
「どうでもいいか。目的なんて。どうせ死んだんだし、儀式場作っての大量殺人の目的なんて大体決まってる」
山/カミに近い位置。隔絶された場/神域。贄/奉じ捧げられた命。これだけ揃えば馬鹿でも気付くというものだ。
「降神術式。ヤマノカミを降ろして、願いを叶えようって魂胆だ」
ここいらの土地神には何か曰くでもあるのかね、呟き。
「ただ、供物を奉じるのにライフルはどうかと思うけど。まぁ、簡略構築ならしかたがないのかな。式も居たし、手抜けるところで抜いといたか」
ただ手順を辿るだけが魔術ではない。抽出したコード、構築するプログラムソースには省略可能なもの、代替可能であるものが多い。それを独自に改編、再構築することにこそ魔術の真髄があるのだろう。書肆と呼ばれた魔術師は一からオリジナルのプログラムを構築することを好んでいたが、他人の作った魔術を使うこともあり、そういう時には必ずプログラムを解析してどのような処理を行っているか調べ、自分好みのカタチへと変えるようにしていた。先程死んだ男も、同じような性質だったのかもしれない。
「どうでも良いんだけど」
彼は死んだ。確かめる術はなく、また、その気も無い。彼女の関心事は既に他のモノに向いている。
「ねぇ、そう思わない?」
「……っ!」
言葉と同時。魔術師の指先に光が灯った。先程から宙に描いていた陣が完成したのだ。コンパイルされ、空間に走る0と1の数列。それが描く緑色の曲線と直線。完成する幾何学的な演算模様。起動し、炎熱を生む。巨大な炎塊は捩るように引き延ばされて槍状に代わり、打ち出されて空間を焼き切った。残り火すら残さない光熱の直線。直撃すれば塵一つ遺さずこの世から焼失する。
「おっどろいた」
居る。生きて、それはそこに居た。余波で薙ぎ倒された木々の合間、身を伏せて突撃の体制を整えている。
樋泉杏華だ。