暗い室内には無数のコードが蔦のように垂れ下がり、その根元に花弁のように配置されたディスプレイが青白い光を放っていた。
その光の中央には、巨大な卵のような半透明のカプセルがシルバーの土台に据えられて、淡く幻想的に照らし出されている。
静寂の中、コポコポ、と音が響き、次いで湯気が立ち込める。
「そろそろ終りにしたらどうだい?」
マグカップを片手に、眼鏡をかけた男が卵型のカプセルに近づいた。
カプセル内は特殊な液体で充たされ、その中を幾本ものコードに繋れた人影が胎児のような格好で浮いている。
その人影は、瞼を開け男の姿を認めると、何処かほっとしたように頬を弛めた。口の動きだけで、待って、と男に伝える。
ゴポッ、と栓の外れる音の後、カプセルに充たされていた液体がひいていき、中の人影が徐々に露になって行く。
それは14、5歳の子供だった。
中性的な外見で体を締め付けるようなボディスーツを着ており、少年と少女の判別がつかない。
ディスプレイの放つ青白い光の中、カプセルが開き、吐き出されたその子供は、中の液体の為に全身グッショリと濡れていた。
「ココアをいれたんだけど…、まず躰を拭いて着替えないと、かな?」
「いや、先に貰うよ。ありがとう、イェン」
「どういたしまして、ナガセ」
ナガセは力無い瞳で微笑むと、イェンからカップを受け取り、両手でカップを支えてゆっくりと飲み干した。床にはナガセの体を滴った液体が、点々と淡い水玉模様を描いている。
「ありがとう、美味しかった」
丁寧にもう一度礼を述べてカップを返すと、ナガセはイェンの胸にもたれかかった。甘えている、と言うには躊躇いを覚える程、その表情は険しく、まるで追い詰められた者のそれだった。
「大分疲れているんだね。着替えたら休んだ方がいい」
「でも…」
「でも?」
「…いや、何でも無い。わかった」
ナガセは額をイェンの胸から離し、頼り無げな足取りのまま部屋を去ろうとした。その背中に、イェンは問いかける。
「君は一体、何と闘っているの?」
ナガセの足が止まった。静かに振り返り、苦しそうにイェンの、眼鏡の奥の瞳を見据え、泣きそうな笑顔になる。
「何故、それを聞くの」