小さな山を越え、田圃だらけの道を歩き、白い体を汚しながら、この小さな町にやってきた。
たくさんの友達に会うために。2年振り、かなあ?
いつの間にか、商店街まで来ていた。それなりに賑わっている。
道の脇にテレビが置いてあるのが見える。電気屋かな?立ち止まってテレビに目をやる。
〈崖っぷちシンガーソングライター、TAKA。今度こそ売れるか!?〉
人間の字が映っているようだ。人間の作った字など、わたしには当然読めない。喋り声も、ペチャクチャとしか聞こえない。
猫の声も、人間にはこんな風に聞こえてるのかな?素朴な疑問だ。
目を閉じて耳を澄ますと、テレビから優しい歌声が聴こえる。なんだか優しい。
再び歩き出す。たくさんの人が行き来しているが、どれも同じ顔に見える。
人間にも、猫の顔はみんな一緒に見えるのかな?わからないことばかりだ。
そんなことを考えているところに、ある人間が目に入った。
そこには、ほかとは違う人間がいた。何と言えばいいのかな?
輝きが違う。とても優しそうな感じ。どこかに惹かれる。
男の子かな?顔じゃわからないけど、雰囲気でそんな気がする。
わたしは心に違和感を感じていた。好きになった?
「わたし、あの人間が好きだ。これが恋ってやつなの?」
1人で呟く。これはわたしの初恋なのか。
もう1度、目を凝らして相手を見る。やっぱりいい。
何と言うか、猫と人間の壁を感じさせない、境界を感じさせない、優しさを感じさせる人間だ。
「人間、人とも言うんだっけ?人、ヒトだから…。」
わたしは頭をフル回転させた。
「ヒトだから、ヒトクン、ヒト君だ。ヒト君って呼ぼう!」
1人ではしゃいでしまう。これが恋の力なんだ。
ヒト君は背中に、大きな黒いものを背負っていた。何かのケースかなあ?
ヒト君が歩き出した。わたしは、こっそりと後を追う。物陰に隠れながら。
ひまだから。いや、無駄なプライドは捨てよう。好きだから追うのだ。
オレンジ色の太陽が、照れくさそうに、遠くの山に隠れようとしている。
それは、わたしの影と心を映しているようでもあった。
―続く―