大きな背中を見ながら歩く。本当にほっとする。
ヒト君は時々、通りかかる人間に声を掛けられているように見える。
あくまで時々だけど。みんなに人気があるのかなあ?嫉妬してしまう。
しばらくすると、小さな木造の家に来ていた。
とても古くて、小さくて、ボロボロ。倉庫みたいな家だ。
上を見ると、『山田』という人間の字があった。名前だ、と予想がつく。
気付くと、ヒト君は家の中へ入っていってしまっていた。
今日はあきらめて明日来ようかな、と思って俯きながら歩いていると、小さな紙切れを見つけた。
横長で、字がいくつか並んでいるようだ。裏は真っ白。
まわりを見渡すと、公園にいるとわかった。下を見て歩いていたから気付かなかった。ヒト君のことばかり考えていたからかもしれない。
薄暗くなってきた。明日までどうしよう。夜は長い。
結局、昨日は眠れなかった。ヒト君のことで頭がパンクしそうだ。
昨日の太陽が、胸を張って昇ってきた。あんなに照れくさそうだったのに。
わたしは、早速ヒト君の家に向かう。ここからはすぐだと思うけど。
次第に早足になっていく、が、速度をゆるめる。ドキドキしてきた。
わたしは口に紙をくわえている。いや、手紙を。ヒト君への気持ちがこもっている。
昨日の夜、徹夜で、しかも心を込めて描いたのだ。
拾った紙切れの白いほうに、湿った土でハートの形を描いた。
ハートの意味が、猫も人間も共通だといいなあ。
何度も描き直したのだ。気持ちが伝わらないわけがない。
また、無意識のうちに早足になる。
ヒト君の家に着いた。相変わらずボロい家だなあ。
四角いボタンを押すと、中から人間が出てくるのを見たことがある。
だからわたしは、軽快にジャンプして、片手でひょいとボタンを押した。
(ピーンポーン)
鳴った!急に緊張してきた。
白い毛が、赤い毛に変わってしまっていないか、と心配になるくらいだ。
―続く―