「ほ、ほんとに、今さわったら倒れてしまいます。」「家は?どこ?」
ウィルはまた不審者なんだろうかと疑ったが、なんだかだんだんどうでもよくなってきた。
「私は、旅の者でして。家はありません。ですから、お金もなく・・・。」
ますます怪しいとウィルは思った。
だが目線をフィオナにあわせて話しているうちに、彼女は悪い奴じゃない、となぜか思えてきた。純真な心が自然と伝わってくるのだ。
「いつもはいろんな方の家に泊めていただいてるのですが・・・。今日は見つからなくて。」
フィオナは困っていた。いつもなら素直に“泊めていただけませんか”と言えているはずだ。なぜ言えない?
相手が若い男一人だからだ。いかにも一人暮らしって顔をしている。さすがのフィオナでも一つ屋根の下で見知らぬ男と一夜を過ごすのはきつかった。
だが、腹は減っている。 ウィルは察した。きっと俺の家に泊まりたいんだろうけど、男と二人っきりはきついんだろう、と。
「そこの店でパン買ってくるよ。まだギリギリ空いてるかな。それならいいでしょ?」
「す、すみません。迷惑かけてしまって・・・」