「生まれ変わったら何になりたい?」
「そうだな…」
ユキが俺の腕の中で、上目使いに答えを待っている。
「またユキの彼氏になりたい」
ユキは嬉しそうだったが、ワザとむくれて見せる。
「もー、適当なんだから。マジメに答えて。」
「マジ、マジ」
俺はご機嫌取りにユキのオデコにキスをひとつ。
こーゆーのバカップルって言うんだろうな、とどっか妙に冷めた気持ちで。
しかしながらこの世には『クウキ』ってヤツが有り、それを外すと酷く息苦しい。
よって俺は生まれてこのかたずっと、周りと呼吸を合わせて生きて来た。
お陰でカワイイ彼女も出来た。
彼女の唇が求めてる事がわかったので、俺はまたキスをした。
「泊まっていけばいいのに」
「ダ〜メ。朝一でバイト有るし」
ユキはスネて見せる。本気で引き留めようってんじゃなくて、俺を困らせたいだけ。
ホントカワイイ。ユキ。
「明日の晩も来るから。今日より一本早い電車で来る!」
「嬉しい!じゃあ約束!」
ユキのマンションは住宅地にあり、入口はオートロック、住民以外入れない。
だから入口にソイツが立っているのを見た時から、嫌な感じはしていた。
仕事上がりのOLって感じで髪が長く、うつ向き加減。まるでホラー映画の女の幽霊。
俺は気味が悪くなり、足早にそこを離れた。
電灯がまばらな路地で俺は足音が二つ響いてる事に気づく。
俺のスニーカーと、ハイヒールを履いた誰か。
俺の脳裏にさっきの女の姿が浮かんだ。
(んなバカな、あんな奴知らねーし)
俺は自分の想像を否定しながらも歩みを速める。
ザッ ザッ ザッ
カッ カッ カッ
ついてくる。ぴったりと。
ザッザッザッザッザッ
カッカッカッカッカッ
俺はとうとう走り出した。とてもハイヒールで追い付ける速さではない、ハズ――
(振り切れない!?)
俺は思わず振り返った。その瞬間、世にもおぞましい光景が目に飛込んで来た。
ソイツは汗と涎を垂らしながら叫んだ。
「嘘つき!!
ずっと一緒って言ったじゃない!前世でそう言ったじゃないの!」
そのオッサンはハイヒールを履き、スカートをたくし上げながら物凄いスピードで追って来た。
俺は大声をあげ全力で走った。