リリィはとにかく走り回った。どこに行っても悲鳴の嵐である。目の奥が熱くなってきた。
お父様は?
マーチは?
みんなは?
ひたすら走っていると、市長や警官と出くわした。もうどうにでもなれと思ったが、父親の無事が確認出来て安堵した。
「ど、どこに行ってたんだ」命からがら逃げ出した市長は気が動転している。
「ごめんなさい、無事でよかった!」
するとすぐに市長はリリィの手を掴んだ。
「さぁとっとと此処から出よう」
リリィは手を振り払って言った。
「ちょっと待って!今それどころじゃないの!」
「馬鹿なことを言うな!死ぬ気か」
市長は怒鳴ってリリィの腕を引っ張る。
「いやだ放して!」
逃げ惑う人々の間だから怪獣がやって来た。市長はリリィの腕を引っ張って逃げるよう促すが、リリィは動こうとしない。
間近で見た怪獣はかなりおぞましいもので、ぶくぶくの体に不釣り合いな長細い腕を伸ばして人間を食べてる。時折ドロドロしたヘドロのようなものや飲み込んだ人間がぼとぼと落ちる。体から足や手がはみ出ている。
リリィも市長も吐き気がした。