―Never Land― 3.

ケィ。  2008-10-20投稿
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 ヨットが水平線の向こうへと進み、見えなくなった。

 白い砂浜には椰子の木が立ち並び、その先では子供が波打ち際で犬と戯れていた。
 ナガセは砂浜に立ち、青く何処までも広がる海を眺めた。

 右手に持った小さなリモコンのスイッチを切ると、それらは忽ち消え、代わりに白く無機質な壁に囲まれた、殺風景な部屋が現れた。

 ホログラム。触れる事の出来ない幻。

「海へ行きたいの?」

「ううん、そうじゃない。何処か行きたい場所がある訳じゃないんだ」

 イェンが優しくナガセの頭を撫で、その肩に手を置いた。二人は親子のように、兄弟のように寄り添った。

「今のはただのテスト。だけどこれは、失敗みたいだ」

 そう言ってナガセは、再びリモコンのスイッチを入れた。
 今度は二人はカーニバルの只中に立っていた。

「音が無いもの」

 カーニバルはその賑々しさと裏腹に、静寂に包まれていた。人々は皆笑顔だが、笑い声一つたてなかった。

 二人は色取りどりの群衆に紛れながら誰にも押される事は無く、まるで幻は彼等自身の方であるかのように、すり抜け、置き去りにされた。

「じゃあ造り直すのかい?」

「いや、ホログラムはもう止める」

「どうして?ここまで良く出来てるのに」

「無意味だから」

 そのきっぱりとした物言いにイェンが戸惑っているのに関わらず、ナガセはリモコンを床に落とし、踏み潰した。ガシャン、という短い音と共にカーニバルは消えた。

「君は何を欲しがってるんだい?外に出たいなら私が上司にかけ合ってみようか?」

 イェンの提案に、ナガセは強く頭を振った。

「外へ出たくなんかない。僕に貼られたレッテルが剥がれない限り」

 イェンが、はっと息を飲んだ。


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