「異端の天才児、冒讀の児、遺伝子のキメラ…人工受精と遺伝子操作によって生み出された、歪んだ研究対象」
ナガセは己れの傷である言葉を幾つも、すらすらと言って見せた。それらは皆、数年前の新聞が彼につけたあだ名だった。
「僕のせいで僕の両親は牢獄に繋がれている。その僕が、どこへ行けるって言うの」
「君のせいじゃない。彼等が捕まったのは、彼等自身の罪のせいだ」
「僕を造った、っていう、罪」
「自分を責めるな」
「責めてない!事実を言っただけだ」
憤りがナガセの華奢な肩を震わせ、その恐ろしい事実を前に出口を求めていた。ナガセは自分の腕に爪を突きたて、苛立たしげに掻きむしった。
「よすんだ」
イェンが鋭く注意した。
二人はもはや寄り添ってはいなかった。間に空けられた、たったフランスパン一本分ほどの距離が彼岸と此岸のように二人を分かち、触れるのを躊躇わせた。