昼近くになり健吾は帰って来た。
かなり疲れたのか帰るなり眠ってしまった。
紅はその隙にとある場所に出向いた。
健吾は夕方まで眠っていた。その頃には紅も戻っており普段通り過ごしていた。
「お話があるの」
紅の言葉に健吾は余裕の顔で「なんだい?」と答えた。
「私と離縁してください」
一枚の紙を取り出して申し出た紅を健吾は笑う。
「いいよ。僕と別れて連二郎君と一緒になるつもりかい?ただしここは渡さないよ。身一つで出ていくんだ。無一文であんな怪我人つれて、行き着く先はどぶ板通り。義理の母と同じ道を辿る気があるならね」
健吾は勝ち誇った顔で紅を見る。紅の出した紙に署名しひらひらと紅の前に落とす。
「それでもいいわ。貴方とは生きていけ無い。離縁してください」
署名入りの紙をすかさず拾い紅は答えた。健吾の顔は少し引き攣った。
「あの男がいけないんだね。あの男にお前騙されているよ」
健吾は離れに向かった。手には懐から出した短銃が握られている。
「やめ…、連二郎を打たないで!」
紅の叫びを背に健吾は離れへと急いだ。
離れは薄暗く、火鉢の明かりが健吾の顔を照らす。健吾はためらいもなく布団に向かって数発弾を撃ち込んだ。
「これで離縁なんて言わないだろう?紅?」
てっきり後から紅が来ていると思ったが紅はいなかった。
そういえば、あやめが面倒見ているはず、そのあやめの姿もない。おかしい。
健吾は布団をめくって見た。枕が人型に並べられている。
「やられた」
健吾はすぐに母屋に戻るがそこには紅処か遊女、使用人のはてまでもぬけの殻。
急いで店の外に出るが仲見世が始まり人がごった返していた。
「おや?今晩は紅華楼の明かりがないねぇ。どうしたんだろう?」
常連客らしい男が真っ暗な紅華楼を見て呟く。
やられた。紅に…。
健吾は店の前でがっくり膝を地面に着く
でもいいさ。この店さえあれば何とでもなる。女だって金だって。
気がつくと何人もの男に取り囲まれていた。
「すいません。紅華楼はしばらく休みに…」
常連客かと思い顔をあげると柄の悪い連中だった。
「な…、何の用です?うちの店に何か?」