ミユキは彼を待っていた。
夜11時の交差点。
スクランブルの信号は、さっきからずっと青と赤を交互に繰り返している。
交差点を渡る人たちは、みな規則正しく、この街のエキストラを見事に演じ切り、それぞれの帰途につく。
そしてミユキだけが、まるで風俗の立て看板のように、あたかも前世紀からそこに立っているかのように、そこだけ時間が止まっていた。
やがて風が吹き始め、ミユキの短いスカートが大きく揺れた。
酔っ払いのサラリーマンが意味不明な言葉で話し掛ける。
ミユキは答えない。
彼を待ち続けた。
午前2時。街の灯かりが残り少なくなった頃、一人の客引きの男性が、スクランブルの反対側からミユキに向かって歩いて来た。
そして青信号の点滅が、赤に変わるのと同時に、男はミユキの前で立ち止まる。
「アナタがお探しなのは、きっとコレですよ。」
男は言った。
そう言ってミユキに差し出したのは、ポケットティッシュだった。
男はポケットティッシュを手渡すと、片方だけ笑みを浮かべ、そのまま通り沿いに消えていった。
ミユキはポケットティッシュを見つめ、裏返す。
そこには、こんなことが書かれてあった。