ポケットティッシュには、『ショウはもうここを離れています ―スナック メラミン―』そして、スナックの電話番号だけが記されていた。
ショウは彼の名だった。
ミユキはしばらくティッシュを見つめた後、おもむろに携帯電話を取り出し、そこに記されていた電話番号に発信した。
5回呼び出し音が鳴った後、男が出た。
「はい――スナック メラミンですが」
聞いたことの無い、低い男の声だった。
「…もしもし」
ミユキは消え入りそうな声で、男に話し掛けた。
「ショウを知っているんですか?」
ミユキが尋ねる。
「………」
男は答えない。
「ショウは、この街には居ないんですか?」
「…ああ。」
男は、ため息混じりにそう答えた。
「アナタは誰?」
ミユキが再び尋ねる。
「単なるスナックのマスターさ。気になるなら、おいで。今なら客は誰も居ないよ。タバコ屋の角のところさ。」
男はそう言うと、一方的に電話を切った。
電話を切った後、ミユキは、吸い込まれるようにゆっくりと、スナックのある方に歩いていった。
そして、タバコ屋の角のすぐ傍にある、暗くて細い地下へと続く階段の下に、その店はあった。