1番奥の部屋、布団の上に連二郎は上半身を起こしていた。
「起きてて大丈夫なの?」
「まぁ、丈夫なのが取り柄だからな。傷は痛むが上手く着いたようだ。医者も驚いていたよ」
連二郎は手招きして紅を側に呼んだ。
紅は連二郎の隣に寄り添う様に座る。
「あの…ね。健吾とは離縁したの」
紅は健吾の署名入りの書類を見せた。
「あー、抱きてぇ。怪我さえしてなかったら今すぐ抱くんだけどよ」
連二郎は紅の肩を抱き、ぐっと自分に抱き寄せた。
「これからいくらでも…」
紅は顔を赤くして答えた。
十日後、動ける様になった連二郎と山柴組に挨拶にいく事にした紅にあやめが同行を願い出た。
「もう、店を閉めるなら吉原にいく事も無くなるからもう一度ゆっくり見ておきたいんだ」
山柴組に着くとあやめはその辺りを見てくると別れた。
連二郎と紅は山柴の親分と会った。
「よう、死にぞこない」
親分はニヤニヤして連二郎を冷やかした。
「まぁ、こんないい女抱かずに死ねませんから」
連二郎もニヤリと笑って返す。
「嬢ちゃん。こいつ、こんな口だが心底惚れた女しか手はださねぇし、以外と真面目だからまだ嬢ちゃんに手ぇ出してねえんだろう? たぶん嬢ちゃんが落ち着くまでと決めているんだと俺は思っているんだかな」
紅は親分を見て答えた。
「そりゃあ、私が惚れた男ですからね」
親分は笑った。
「これは、わしからの御祝儀と退職金だと思って受け取ってくれ」
それは紅華楼の権利書だった。
「嬢ちゃんの元旦那が詐欺師に騙されて盗られたのが回り回ってうちにやってきたのでね。よかったらもう一度、紅華楼の女将としてその腕奮ってみたらどうかね」
「親分さん…。ありがとうございます。でも…」
と紅は連二郎を見た。
「いいじゃないか。回って来たとは言っているが親父が手を回したくらい察しがつくよ。くれると言うんだから貰おうぜ」
「では、お言葉に甘えて頂戴します。親分さんも遊びにきてくださいね」
紅の言葉に連二郎は笑った。
「無理、無理。親父は奥さんに頭上がらないからな。遊郭に足運んだってばれたら大変だ」
「連二郎、余計な事いわんでいい」