帰り際、親分は言いにくそうに話した。
「実は嬢ちゃんの元旦那なんだが、あれから探しているんだが全く姿が見えなくてな。短銃なんて物騒な物持っているから気をつけてな。うちの方でも探して見るが吉原から出ていってりゃあいいんだが」
紅は一抹の不安をおぼえた。どこからか健吾が現れ連二郎を再び襲ったらどうしようと。
「なに、それだけ探していないとすればとっくに吉原の外でしょう。中にいたって心配いらないよ、俺が守ってやるから」
だが、紅の不安は消し切れなかった。
山柴組の外に出た二人はあやめを探した。
「どこに行ったんだろう?あやめ姉さん。紅華楼をまた始められるって早く教えたいのに」
二人は紅華楼に向かって歩いた。二人の後ろを付けている影に気付かずに。
紅華楼の前で看板をじっと見ているあやめを見て紅は声をかけた。
二人を見てあやめが駆けてくる。顔付きがおかしい。
不意に後ろでどよめきが起こり紅が振り返る。そこには短銃を紅に向けている健吾の姿があった。
パンという乾いた音が響く。と、紅の視界にあやめの姿。そのままあやめが紅に被さる様に二人、倒れ込む。
連二郎は間髪入れず健吾の元に走り込む健吾を捩伏せた。
「紅、大丈夫か?」
連二郎の問いに「大丈夫」と答えた。
が、次の瞬間。血まみれのあやめが自分の上にいることに気がつき悲鳴をあげる。
「あやめ姉さん!!」
あやめは力無くぐったりとしている。
「紅…ちゃ…ん。よかっ…た、怪我な…くて。どうせ…田舎でもあまさ…れて。行くところなんて…どこにも…。最後に…家族より私を…必要としてくれた…紅ちゃ…んの役にたてて…よかっ…た…」
紅はあやめの打たれた個所を調べた。背中の真ん中を打たれている。血がとめどなく溢れる。両手で押さえても間から流れていくのが判る。
「あやめ姉さん。また紅華楼を再開出来るのよ。また、紅華楼の一番遊女に戻れるのよ。がんばってあやめ姉さん」
「また、やれる…。またやれるんだ…。よかった…。よか…」
がくんとあやめの首が墜ちる。
「姉さん?あやめ姉さん!!」
紅があやめの身体を揺するが反応がない。
医者が駆け付けたが様子を見て首を横に振る。
「いやーあー」