紅の叫びが響く。
紅はあやめの血で染まったまま健吾に近づく。
その頃には憲兵に取り押さえられていた。
紅は何かの時にと忍ばせていた懐刀に手をかける。それを見た連二郎は紅の前に立ち静止する。
「行かせて。あやめ姉さんの仇討ちにいかせて」
連二郎は紅をぎゅっと抱きしめた。
「今、お前があいつを刺した所であやめは還ってこない。今、お前があいつを刺したら紅華楼はどうする?あやめの頼所だった紅華楼の明かりを点すのがお前の仕事だ。あいつの裁きはあいつらの仕事だ」
連二郎は憲兵達を見た。
憲兵は一礼して健吾を連れていく。
「紅、残念だよ。君を連れて一緒に行くつもりだったのに」
健吾は最後にそう言い残した。
あやめの葬式は紅華楼で行われた。女将をその身で守った遊女として多くの常連や他の遊郭の遊女も参列し、それは賑やかな葬儀となった。
「あやめ姉さんらしい、賑やかで派手な葬儀になってよかった」
紅はその様子を見て呟いた。
「お嬢様。憲兵のかたが」
入口に一人の憲兵が立っている。
「なにか?」
尋ねると憲兵は言いづらそうに話始めた。
「実は元亭主の健吾さんですが、今日未明獄中にて首を吊っているのが見つかりまして。こちらに知らせるのはなんでしたが遺体の引き取り手がありませんで…。こちらとしても無縁仏として扱っていいのか伺いにきたしだいです」
紅は目の前が暗くなりその場に倒れた。
気がつくとあやめの葬儀は終わったのか、辺りはしんと静まりかえっていた。
「気がついたかい?」
連二郎がほっとした顔で紅を見る。
「今まで妙もいたんだが遅いから休ませたよ」
そういい、紅の頭を優しく撫でる。
「色々あって疲れたろう?今夜は何も考えず眠りな」
紅は連二郎の着物の端を掴む。
「お願い、一緒に寝て。一人じゃ怖くて。連二郎までどこかに行ってしまいそうで」
連二郎は紅の布団に入り優しく抱きしめた。
そのうち、微かに聞こえる吐息と喘ぎ声。
ようやく二人は結ばれる事ができた。
健吾の遺骨は鶴の元に渡り、紅は紅華楼の女将として再出発した。
妙と竹蔵は籍をいれ、隠退した雪の代わりに宿を任された。