なるほど、店長盗まれた数、水増しして自分で吸っているんだ。でなかったらけちな店長が煙草なんて吸う訳ない。
恭平は一人納得してレジに入る。
「やっぱり医者より警官の子供かなぁ」
次のバイトを選ぶ基準を考える店長の声が背後から聞こえた。
安藤はほとんど深夜帯専門だったので恭平はしばらくぶりで大学に通った。
少子化の問題か大きな構内には人は少なくいつ来ても寂しい雰囲気だ。
大低の大学生は金持ちの子供で少数派で奨学生か親の無理(一人っ子が多い)が通っている。今の世の中義務教育すら危ういのに大学まで行けるなんて俺は幸せ者なんだけど…。大半を占める金持ちの子供とは話が合わず馬鹿にされている気分になり恭平はあまり大学に来たくはなかった。
「よう、恭平。久しぶり。てか、俺がなんだけど」
大学で数少ない友人の寛人が声をかけて来た。
「いや、俺も久しぶりなんだ。今度からバイト深夜になったからしばらくは通えそう」
寛人は恭平の横に並ぶ。
「バイトってコンビニだっけ?まだ行ってるんだ?」
寛人は煙草を恭平に差し出す。が、恭平は首を横に振る。
「これ、時々危ないの入ってて、たまにトリップしちまうけどさ」
寛人が吸っているのは路上者が作った違法な煙草で大麻やマリファナが混じったものも出回っている。
恭平は一度当たって入院してからは手を出さなくなった。
「しかし、いいことないかねぇ」
口癖の様に寛人はよくそう言う。
ギャンブルも好きで違法の賭博場に出入りし、宝くじを買ってはどぶに捨てる生活を送っているこの男、実は父親が有名な演歌界の大御所で金持ちなのだがやることが破天荒でなぜか恭平を気に入っているのだ。
「そうだ、これ。ほら」
寛人は恭平にCD−Rを渡す。
「今、人気絶頂のモカの本番だぜ。しかも無修正。売ってもいいし、見てもいい。恭平の好きにしな」
モカとは今、老若男女に大人気のアイドルで「戻って来た清純派」といわれている。そんなアイドルの本番、無修正ならかなりの値がつく。
恭平はそっと鞄にしまった。
「親父さんがらみか?」
寛人は笑った。
「まあな。親父のコレクションの一枚さ。それはダビングだ。汚れてるよ、芸能界もこの世界もさ」