本当の暗闇って知っている?
一筋の光りも、音も吸い込んで消えていきそうな「闇」を知ってる?
あたし知ってるよ。
夢のなかでさ…。
笑わないでよ、本当なんだから。
夢のなかで、あたし真っ暗な部屋にいるんだよ。どうしてか、そこが部屋だってことを知ってんの…おかしくても仕方ないじゃない。
夢ってそういうもんでしょ?
でさ、鼻をつままれてもわからないくらいの闇のなかで、あたしどうしようもなくて…とにかく自分を触るの。
顔を触って…それから服を触るの。
そしたらなんか濡れた感触がしてさ、ギクッとして…匂い嗅ぐのよ。
動物みたいでしょ?
鉄みたいな匂いがして
(あー、血かぁ…)
って納得してさ。
ベタベタして気持ち悪いけど仕方ない。
しばらくそのまま突っ立ってんだけど、自分の心臓がドキドキ煩いから、一歩…踏み出してみたの
床が妙に冷たくて、耳が静寂のせいで痛くなってさ…両手広げて、壁を捜して…指先が何かに触れたの。
でもそれ…壁じゃないの
だって揺れるんだもん。
グッて押したら、抵抗なくゆっくり動いて…パッて離すと戻ってくる。
サンドバックみたいな感じ。
暖かいような気がして、抱きしめたの。
だって怖かったんだもの…誰もいないし。
ぎゅって抱きしめたら、それもあたしを優しく包んでくれるの。
それでホッとして泣いちゃうんだよね…。
変な夢でしょ?
欲求不満なのかもね。
病院の一室で、枕に向かって少女は話し続ける。
無理もない…。
殺人鬼に捕らえられ、天井にぶらさげられた細切れの肉を入れた麻袋と一週間も一緒だったのだから…。
発見されたとき、少女の目は何も映さず、嬉しそうに麻袋を抱きしめていたという。
少女の声が、刑事である男の胸に突き刺さる…
ねえ…
本当の暗闇って知っている?
一筋の光りも、音も吸い込んで消えていきそうな
「闇」を知ってる?
あたし知ってるよ。
あたしは知ってるよ…。
終わり