「ねぇ、池上君はモカ好き?」
「まぁ。でも凄くとまではいかないですけど」
「これさぁ…」
恭平は小声で池上君に教える。
「うっそ。マジでぇ?」
池上君はちょっと興奮気味に恭平を見る。
「マジだよ。俺朝から見ちゃってさぁ。もう凄いよ。二回戦までいくし」
「貸してくれるんですか?」
「うん」
池上君は嬉しそうに自分のロッカーにしまった。
「池上君って深夜のバイト長いの?」
「まあ、長いっすよ。歳ごまかしてって、これ店長に内緒で。中坊から働いてますから。もう、五年になるかなぁ。店長には大学に行ってることにしてるんですけど、まだ17です」
池上くんは恭平がCD−Rを貸したことですっかり気を許し色々教えてくれた。
店長と昼のパートのおばちゃんとの不倫の話や、安藤君がタバコ取っていた事も早くから知っていていくらか貰ったこと。
向かいのお嬢様学校は名ばかりで実は大半の娘が売りして小遣い稼ぎしている話。売りは今、小学生で二万円、中坊で一万、高校生だと五千円からよくて一万だという事。
中学から学校に行かずバイト生活という池上君は彼女と同棲中で生活費を稼いでいると言う。
「俺より一つ下なんだけど可愛いんですよ」
見せてくれた写メには髪を赤く染めた女の子がいた。
「可愛いね…」
恭平がそう言うと池上君は嬉しそうに笑った。笑った池上君の歯はシンナーで溶けて小さかった。
今日は徳さん来ないのかな。昨日は23時には来たのに…。毎日来るわけじゃないのか?
恭平がそう思っていたら警官が二人入って来た。
一人は父親の知り合いだったので恭平は「こんばんは」と声をかけた。
向こうはすぐに恭平だと気付かなかったが名札を見て判ったようで話かけてきた。
「恭平君だっけ。ここでバイト?大変だね」
そういうと仕事の顔になる。
「昨日の夜に、たぶんこの時間帯だと思うけどホームレスの男来なかった?」
徳さんの事だ。恭平は直感した。徳さんどうした?捕まったのか?で、俺の事話した?
恭平が言葉に詰まっていると池上君が口を開いた。