部屋中に鬱蒼と生い茂った植物に、思わず足が止まった。
ナガセはその中で、平然とノートパソコンのキーを叩いていた。
「散らかってるけど大丈夫だよ。上がって」
「…散らかってる、ねぇ。ますます散らかっていくみたいだけど、いいのかい?」
植物達は話している間にもその根や枝をどんどん伸ばし、増殖し続けていた。
「大丈夫。明日には枯れるから」
ナガセは自分に絡みつく根をそっと払い、キーを打った。
イェンは、疑問点の多さに何から尋ねるべきか迷った。
「…これも君が作ったの?何の為に?」
「僕が作った。僕の為に」
まともに答える気は無いらしかった。それでいて大真面目なのだから、イェンにはお手上げだった。
仕方なく、別の話題を持ち出した。
「君はもうすぐ誕生日だろ?何か欲しいものはないかい?」
ナガセは画面から目を離し、イェンを睨んだ。
「そうだね。試験管の中にいた僕が、外に取り出された日だ。
せっかく忘れてたのに、教えてくれてありがとう」
ナガセの心底厭わしそうにしているのにも動じず、イェンは穏やかに言った。
「誕生日には贈り物を貰うべきだ、と私は思うよ。
祝ってくれた人の心を大切に胸にしまって、また次の一年を過ごすんだ」
「…それがイェン流の誕生日ってわけ」
ナガセは大きくため息をついた。
「欲しいものなんか無いよ。何処にも無い。…だから僕は、何かを造りたくなるのかもね」
そこに在ったのは、倦怠と孤独。
ナガセは、言葉よりその裏に有るものに敏感で、容易には他人の言う事を受け入れなかった。
この言葉も、ナガセには届かないかも知れない。そう予感しながらも、イェンはそれが芽吹く事を願い、言葉を紡いだ。
「ナガセ、外に出てみないか?今すぐじゃなくていい、いつか。
色々な物に触れて、何気ない風景を大切にして…、まだ人に触れるのは怖いかも知れないけど、君が何かを愛するなら、一人でも孤独では無くなるはずだよ。…」