―Never Land― 11.

ケィ。  2008-10-26投稿
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ナガセは、狭い自室のベッドの上で目覚めた。少し休むだけのつもりだったのに、いつの間にか眠ってしまったらしい。

 ベッド脇のチェストに置かれた男物の腕時計を見ると、カプセルに入ってから5時間も経ってしまっていた。

ナガセは跳ね起きると、イェンの姿を探した。

「イェン!イェン!」

 悲痛なまでに叫ぶが、答えは無い。
カプセルのある部屋に駆け込み、ディスプレイを凝視する。
 …time over。

「イェン…」

締め付けられるような声で呟いた。青白い光の中、その姿はさながら、彼岸に佇む者のように儚い。

 その瞳が、自らの内をさ迷う様に揺れていた。そこに居る、彼を捜して。

「イェン、君は、もう思い出の中にしかいない」

 ナガセは、今、独りだった。
 随分前から一人きりだった。

「僕の思い出の中にしか。だから、僕が君を、何度でも産んであげる」

 イェンの仕事は、ナガセが一人で生活出来る年齢になるまで見守る事だった。彼は役目を果たし、遠くへ、行ってしまった。

 生きていればまた会える。それは、嘘だった。
 人は変わる。変わってしまう。同じ人間には、二度と会えない。あのトパーズの様に綺麗な瞳が、ナガセを救ってくれる事は、もう無いのだ。

 それを知っていたから、だから、この装置を造った。

 イェンは死んだ訳ではない。もう二度と会えないだけ。

そしてナガセはカプセルに入り、自らの体に埋め込んだプラグにコードを繋ぐ。それらはカプセルから、室内に巡らされた無数のコードへと繋がっている。

 記憶に有るものを、具現化する装置。思い出を物質を伴って再現する箱庭。
 …それが、この部屋。
 カプセルは、入力装置であり、部屋の変化からオペレーターを保護する役割を担っているに過ぎない。

『君が何かを愛するなら、一人でも孤独では無くなるはずだよ』


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