幸福というものがほんの些細な一時に過ぎないなら、時が残酷にそれを遠ざけるなら、何度でも思い出せばいい。
何度でも、繰り返せばいい。
何度でも、生まれ直せばいい。
何度でも、造りあげよう。
そこに、なんの咎がある?
この命さえ、マガイモノなら。
「また、一緒に暮らそう?
その為なら、僕は何だってする。僕らの世界を守る為なら、何だって。…」
ディスプレイの表示が物凄いスピードで流れて行く。画面が、青から赤へと変化した。その光によって、室内も赤く染まる。コードが、血管のように脈打ち出す。
カプセルに、液体がゆっくりと充たされて行く。その浮力に身を任せ、ナガセは胎児のように膝を抱き、逢いたい人をイメージする。
強く、強く、思い描く。
願うように。
祈るように。
何度も、何度も。…
いつしかまた、ディスプレイは青白い光を放っていた。
やがて、暗い室内から、コポコポ、と音が響く。温かなココアから立ち上る薫りが、辺りに満ちて行くような気がした。
「そろそろ終りにしたらどうだい?」
カプセルのガラス越しに聞こえる穏やかな声に、頬が、噛み締めていた顎の筋肉が弛んだ。
涙が溢れそうだった。
――嫌だよ、イェン。
終りなんて、いらない。
『ナガセ、外に出てみないか?いつか…』