「それ」は突然起きた。
俺が兄と家に帰る時だった。後ろから黒いRV車がいきなり突っ込んできた。反射的に二人とも避ける。
直ぐさま車の中から黒いスーツを着たがたいのいい男が降りてきてあっという間に兄を車に押し込んだ。兄は何もできず車に消えた。
「兄貴!」
叫んだ時には車は走り去っていた。
誘拐?
なぜ?
兄が?
いろいろな思考が頭の中をかきめぐる。そこで携帯が鳴り我にかえる。相手は非通知設定だった。唾を飲み込み震えた声で電話に出る。
「もしもし」
「お前の兄は誘拐した」
低い声でとても力強かった。
「今から俺が言うことをやれ」
「…」
「自分の兄を助けにこい。もちろん警察にはいうな」
「は?」
何を言ってるんだこいつは。なぜわざわざ誘拐した者を取り返させる?再び頭が混乱する。
「場所は…」
「場所は?」
「ネバーランドだ」
ネバーランド。それはどこの誰とも知らない奴が作った迷宮だ。その迷宮は一度入ったら二度と出られないありのすだ。しかし出られた者には一億円貰えるという。故に大勢の馬鹿な奴らが挑み今まで一人も生還した者はいない。
「そんなの無理に決まってるだろ」
「期限は一週間だ」
そこで電話が切られた。突然起きた状況に中々頭がついていかない。
一時間後俺はネバーランドへ行く準備をしていた。もうこうなった以上やるしかない。兄を助けるため。ただそれだけのために。
必ずネバーランドから兄貴を助けてやる。
こうして浅野春は兄、泉水を助けるためにネバーランドへ行った。