森に戻り、透はアーシェの後についていると森の中程で急にアーシェとベティの二人が立ち止まった。
透「どうしたの?」透は二人に問い掛けた。しかし、二人は透に見向きもせず、あさっての方向を見つめた。
アーシェ「まさか……この森にまで来るとは……」
ベティ「どうします?アーシェ様、このまま城に戻りますか? それとも………」そう言ってベティは腰にさげている剣に手をかけた。
アーシェ「決まっているだろう。私達には逃げるしかないことを。気持ちは分かるがこんな所でお前を失いたくはない……急ごう…」そう告げて再び進もうとした。しかし……
ベティ「透さん……?」
透は耳を疑った。あのアーシェから、仮にもアーサー王と思われる人物の口から『逃げる』という言葉を聞いたからだ。
透「……ちょっと待ってよ。今、逃げるって言った? 僕には今何が起きてるのか分からないけど、多分だけど敵が来たんだよね? なら、どうして逃げるの!? 僕がいるから?なら、ここにるから二人で行ってきてよ、僕のことはいいからさ」けれども、アーシェは立ち止まらずに進み出そうとした。透には訳が分からなかった。話の内容から恐らくではあるが、この世界は何か大変なことが起きているらしいことが想像できる、そして今この近くに敵と思われる者がやってきたということも。けれど何故アーシェは何もしようとしないのか、それが分からなかった。透はその背に手をのばそうとした。
透「待ってよ!」 叫び、手が触れるか触れないかという所でアーシェは応えた。
アーシェ「もう少しだけ待ってくれ……」その応えは透の動きを止めた。いや、その表情が透を止めたのだ。アーシェの表情には悔しそうな、それでいて哀しそうな感情が滲み出ていた。
透「………」何も言えなかった。透は先程まで詰めよった自分に、そしてこんな表情にさせた自分に自己嫌悪した。
ベティ「……行きましょう」そう促したベティの配慮に透は感謝した。
再び進み出そうと、足を踏み出したと同時にアーシェが叫んだ。
アーシェ「っ!? そんな!? いつの間にこんな近くまで!?」その声に透は驚いてアーシェの顔を見た。そして、その表情に絶句した。
恐怖ーーーーその色でアーシェは被われていた。