「先輩､ここって･･･｡」
「ﾗﾌﾞﾎだけど?」
長谷部は､私に､逆に疑問符を投げ掛けた｡
「でも､私･･･｡」
また､身体が固まった｡話の流れで､ここに着く前から､予測が付いていたが､ﾎﾃﾙじゃ無い場所に行って欲しいと言う私の淡い期待は､見事に裏切られた｡
「行こうか?」
長谷部は､車のｷﾞｱを引いて､ｴﾝｼﾞﾝを切り､私の手をそっと握った｡私の手は､固く握り締めていたせいで､少し汗ばんでいた｡私は､逃げられ無いと観念して､長谷部の後を追う様に歩いた｡
「香里･･･､どの部屋にする?」
部屋を選ぶﾊﾟﾈﾙなんて､見れ無かった｡足元だけを､じっと見詰めていた｡
「え･･･?ど､どこでも｡」
「じゃ､ここでいっか｡」
長谷部は､適当な部屋を見付け､ﾎﾞﾀﾝを押した｡押された部屋のﾊﾟﾈﾙが､ﾁｶﾁｶと点灯していた｡
「勝手に選らんじゃったけど･･･､三階なんだって｡」
話は､聞こえて居るのに､上の空だった｡寒くも無いのに､全身が震えた｡不意に腕を見ると､鳥肌まで立っていた｡あの日の光景が､昨日の事の様に､脳裏に鮮明に蘇った｡
「香里､どうかした?」
私は､長谷部に勘付かれ無い様に､一生懸命､首を振った｡
「顔色悪くない?」
「だ､大丈夫･･･｡」
「そう･･･｡じゃあ､良いけど｡」
ｴﾚﾍﾞｰﾀｰは､ｱｯと言う間に､部屋の有る三階に着いた｡廊下の先に光が点灯している部屋が有った｡
「香里･･･｡」
長谷部は､後ろに歩いていた私の所まで戻り､手を強く繋いで､引っ張る様に先を進んだ｡私の足は､部屋の上に点灯する光を見た瞬間から､さっきよりも､増して鉛の様に重くなり､先に､なかなか進め無かった｡
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