翌日、早速紅は父親に会いにいくことにした。
連二郎は仕事があるため竹蔵と朝早くから出掛け、海渡は妙の小さい子供達と釣りに出掛けた為、紅と華、それに案内で太一が同行することになった。
「紅様が知っている翌日とは変わってしまいましたし、何かあったら大変ですから」
吉原の中は以前の風格も格調も無くあの御殿の様な造りの遊郭は無くなりただの宿の様な造りの店が立ち並んで廃れた感じがした。
「変わってしまったのね。本当に…」
紅はなんだか淋しい気分になった。
吉原の中は変わってしまい太一の案内がなければ紅ですら迷ってしまうほどだ。
小物屋の前に来るとあの日の光景が紅の脳裏に過ぎる。
健吾が短銃を構え、あやめが紅脳裏前に飛び出した。
まさにこの店の前だったっけ。
紅はあやめが倒れた辺りにしゃがみ込み手を合わせた。
あやめ姉さん。また、戻ってきたわ。ここに…。
「母様?」
あやめや健吾の事を知らない華は不思議そうに紅を見る。
「母様、早く」
華の声に紅は立ち上がり店の中に入った。
店の中はガランとしていて申し訳程度に品物が置いてある。
「すいません。誰か?」
声をかけると奥から女の人の声がした。
「はい。お待たせして」
どこと無く艶のある女が奥から表れた。
「紅です。こっちは娘の華。あの…」
女は名乗るだけで娘と判ったのか「あぁ」と顔に出た。
「私はお父様のお世話してます初です。よろしくお願いします」
初に連れられ店の奥の間に案内される。
初は襖越しに中に声をかける。
「旦那様、お嬢さんとお孫さんが…」
中から返事とも付かない唸り声がする。
「どうぞ…」
初が襖を開けると痩せ細り見る影もない父親が床に伏せっていた。
「き…キク…」
紅の顔を見て父親は亡き紅の母の名を呼んだ。
「お父様。紅よ。こっちは娘の華。お父様の孫よ」
鶴に店を売られてからの父は知り合いの店を手伝いながら生活していた。
鶴と健吾が駆け落ちし、店に顔を青くしてやって来た日から今日まで会うことのなかった父親の変わり果てた姿に紅は涙も出なかった。