「緊張してるの?」
長谷部は、私の顔を覗き込んで言った。
「うん・・・。そうかも。」
緊張―\r
ごまかすには、適当な言葉だったのかも知れない。緊張なんかじゃ無い・・・。恐怖感に、嫌悪感・・・。先輩が嫌いな訳じゃ無い、男性恐怖症になっていた。
長谷部に手を引かれ、部屋の前まで来た。303号室―部屋の上のランプが点灯していた。
私の鉛の様に重い足は、部屋の数歩手前で、完全に動かなくなってしまった。私の手を引っ張って、前を歩いていた、長谷部は、急に止まった私に引っ張られる様に止まった。
「香里・・・?どうしたの?」
「先輩、私・・・。」
「ここまで来て、嫌とか言わないでよ?・・・もしかしてそうなの?」
「・・・、ごめんなさい。」
長谷部の顔色が一気に変わった。
「マジ?・・・、ま、しょうが無いよ。」
長谷部は、私の頭を撫でた。ホテルを出て、車は、東京方面へ向かった。殆んど、会話も無いまま、自宅まで私を送り、長谷部は、帰って行った。
あれから一ヶ月―\r
長谷部とは、気不味くなり、連絡も途絶えがちになった。最初は、気にしないで・・・。と言っていた長谷部とも、段々、疎遠になった。私も、長谷部に悪いと言う気持ちと、男性は、皆一緒と言う微妙な気持ちが入り混じっていた。
大学で昼休み、友達の裕子と学食に行こうと、歩いていた。その時―\r
「お前、香里とどうなの?」
数メートル向こうに、長谷部と友人が、三人で話をしているのが見えた。
「どうって・・・?」
声を掛けれる雰囲気じゃ無い気がした。長谷部も気が付いて居ない。知らない振りをして、通り過ぎようとしたその時―\r
耳を疑う様な会話の内容が聞こえて来てしまった。