「実を言うと、他にも色々候補があったのです。例えば、『うつ病』『引きこもり』『不景気』などなど。いま一番注目されてて悩んだ名前は、『食品偽装』でしたが、こういう商売ですから、イメージが良くないと思い、諦めました。せっかく『ラーメン』作ってるのに、中身が『うどん』と疑われてもイヤですしね、マジで」
ミユキには、もはや言葉を発する気力は残っていなかった。
「いやアッシはね、ホント店の名前は大事だと思うんですよ。イヤ〜やっぱ『食品偽装』にしとけば良かったかなー?『ラーメン食品偽装』…ウンこっちの方が語呂が良かったかな〜?ショクヒン…ギソー…」
男はその後も、一人で何やらつぶやいていた。
「どうもごちそうさまでした。おかげで元気になりました。これからも頑張って下さい。」
ミユキは気持ちを新たにして、席を立った。
しかし、『また来ます』とは、社交辞令でも言うことは出来なかった。
ミユキは店を出ると、さっき自分が落ちて来た急斜面を見上げた。
そして気力を振りしぼり、再び斜面を登り始めた。
登り始めてしばらくすると、下から店の店主が何か叫んでいる。
かすかに『レシート』という言葉が聞き取ることが出来た。