夢を見た。
思い出したくないあの頃の日常。
5歳の俺は大人しい子供で、いつも一人で遊んだ。
父親は飲んだくれで、職に就かず気に入らない事があると俺や母親を殴った。
母親は酒こそ飲まなかったけれど、男にだらしない女で父親の留守を見計らっては男を部屋に連れ込んだ。
父親が近くのパチンコに出かけた時、母親が俺に言った。
『今日、嵐山に連れてってあげるから。』そう言うと新しいリュックを俺に渡した。
『中にアンタが好きなお菓子ぎょうさん入ってるら、後は好きなオモチャに絵本入れて。』
『なんでオモチャ入れなあかんの?なんで絵本入れなあかんの?』
母親は面倒くさそうに『何でもええねん!早よいれっ』と言って俺の背中を叩いた。
俺はミニカーを2つと電車の本を入れた。
母親は大きな鞄を持っていた。
『なんで大きいん?』そう聞くと、母親は言った。
『お母ちゃんの大事なもん全部入れてるからや』
家を出て手を引かれて駅まで歩いた。
母親はずっと黙っていた。足取りは早く転びそうになる。
『ちゃっちゃと歩き!』
泣きそうになる。
だけど繋いだ手は柔らかで温かく、その事が俺を安心させた。
ずっと繋いでいたかった。
目が覚める。
時計を見ると夜中の2時だった。
ここ最近、またあの夢を見る。
後味の悪い夢。
俺はあの女を美化しようとしている、俺を殺そうとした母親。
もう二度と思い出したくない。