由美子が家に帰宅したのはちょうど10時を回った頃だった。由美子の家は小さな喫茶店を営んでいる。現在父親の健司と母の美里とともに三人暮らしだった。
健司は後片付けをしていた
「ただいま」
「あら由美子お帰り今日もバイト大変だったわね」美里がカウンターの隅から顔をだした。
「ごめんね遅くなって……明日はバイト休みだから学校終わったらお店手伝えるよ!」
「本当に…お前も好きなんだな。でもお客さんも由美子の事は気に入ってるからいい看板娘になるよ」
由美子が中岡家にきたのは中二の時だ。
美里は子供ができない身体だった為ふたりの間には子供が出来なかった。
施設にいれられてる由美子を中岡夫妻が引き取り由美子は実の娘のように大事に育てられてきた。
「そんな…感謝したいのは私の方だよ。居候なのにこんなに優しくしてもらっちゃって」
「こらっ!居候なんてそんな事言わないで。あなたは私達の娘、家族なんだから。本当はバイトなんてしなくてもいいのよ…」そう言って美里は由美子の肩に手をおいた。
「自分の小遣い稼いでるだけだから…別に気にする事ないって」由美子は愛想笑いをした。
美里は何かを言いたそうだったが健司が口止めをした為何も言わなかった。
気まずい沈黙が続いたが毎日こんな感じではない。
仲もいいし親子関係は良いほうだ。ただ問題なのは由美子が必要以外に「お父さん、お母さん」と呼んだことはなかった。やはり自分がよその子だと気をつかってるのかと美里は由美子を心配していた。
「そんな事より店、閉めたんでしょ? 立ってないで座ってなよ。後かたずけは私がやるよ。コーヒーいれてあげるから」由美子は笑顔で言ったがこれは作り笑顔ではなく本心から来る笑顔だった。
「ありがとう」
「そうだな、一杯もらおう」
健司と美里はカウンターのイスに腰掛けた。