「でも…」
いいから早くと半ば強引に華を荷車にのせた。
「道が悪いから揺れるよ。つかまってて」
ぐんぐんと進む荷車に華はつかまりながら景色を眺めた。
知り合いの農家から野菜や薪を購入する。
「あれ、太一君。また綺麗なお嬢さん連れてぇ。彼女かね？」
太一は顔を赤くして首を横に振る。
「まさか。お母の知り合いの娘さんさ」
帰りは荷車に物が載ったので華も歩く。
帰る途中、太一は川の中に入り昨日仕掛けた網を揚げる。
中にはドジョウや鯉が掛かっていた。太一は慣れた手つきで魚を魚籠にいれる。
「わぁ、たくさん捕れたわね」
「あぁ、ちょっと寄り道いいかな？」
華は頷き太一の後を付いていった。
太一は大きな酒屋の前で足を止めた。
「待ってて」
華と荷車を残し魚籠を持って中に入る。
「あれ、太一ちゃん。圭吾なら上にいるよ」
「あ、今日は連れがいるから魚だけ置いていくよ」
「いつも済まないねぇ。ところで連れだなんて誰なんだい？」
店の女将らしき人が外を見る。華は軽く会釈した。
「まぁ、まぁ。圭吾、圭吾。ちょっと下りといで。太一ちゃんが彼女連れて来たよ」
「あ、いや、彼女じゃなくお母の知り合いの娘さんだって…」
太一が弁解しても取り合わず笑って華を中に招き入れる。
そのうち、ゆっくりと二階から人が下りて来た。
「太一に彼女だって？本当に？」
圭吾が表れたとき、華はドキンと胸が音をたてたのを感じた。
長身ですらりとして、物腰軟らかく笑顔がこんなに素敵な人を華は見たことがなかった。
圭吾のほうでも華の美しさから目が離せずお互い見つめ合ったまま時が止まった。
二人は同時に恋に落ちた。が、それにお互い気がつきはしなかった。
「おい、圭吾？ 具合が悪いのか？」
階段の途中で立ち止まりぼーっとしている圭吾に太一は声をかけた。
圭吾は我にかえって口を開く。
「いや、こんな美人と太一がどこで知り合ったのかと…」
「だから、お母の知り合いの娘さんだって。華さんと言うんだ。昨日オランダからついて退屈だっていうから買い出しに一緒にいってきたんだ」
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