フィギュアマスターこと一三雄大から受け取った50万円を、例のカップラーメンと共にダサダサのリュックにねじ込んで―\r
俺はマンションを後にし、すれ違った幾つものサイレンをバックに街へと逃れた。
『それにしても』
ズボンのポケットに手を突っ込んで、トボトボと歩道を進みながら、おれは呟く。
『俺にあんな才能があったとは―』
そうだ。
《ユカリちゃん》の発した声とは―\r
俺の裏声だ―\r
カラオケでバイト仲間に引かれまくりながらも必死で試みた女性ヴォーカルのアニソン―
まさかこんな所で活かされようとは。
『ふふっ、天は俺を見捨てなかった―大池太郎、お主もワルよのう』
いい気になって悪人面を作って見せ―\r
今度はすれ違いざまのOLにぎょっとした顔をされて、片手で口元を押さえた彼女のハイヒールがテンポを上げながら遠ざかって行く。
そして―俺はその場にへたりこんだ。
『何やってんだろう―俺は』
ただでさえしがない一アルバイターに過ぎない俺だ。
しかも、今となっては、行った先行った先で常に何者かに狙われ、追い回される存在―\r
これじゃ、疫病神も良いところじゃないか―\r
再びトボトボと歩き出した俺は、いきなりとある名案を思い付いた。
名案とは言っても、実際はやぶれかぶれ、ヤケクソの心境だった。
《そうだ、食っちまえばいいんだ》
全てはこのラーメンが引き起こした災いだ。
だったらそれが無くなれば、災いは収まる。
つけ狙っている連中も、これ以上俺を追い続ける理由が無くなる。
そうだ。
《こんなもの、俺が残らず食っちまえばいいんだ》
震える手でリュックから取り出したラーメンも睨みながら、俺はこの考えが、あながち的外れでもない事に気付き始めた。
《棄てるだけではマズイ。新たな争いのタネになる―他人に渡した所で、今度はその人が危ない目にあうだけだ》
だったら―自分で処分するのが一番だ。
大体ラーメン何て、所詮は食べ物じゃないか。
ならば、美味しく頂かれた方が、ラーメンだって本望な筈だ。
《俺の口と胃袋で全てを終わらせよう―ラーメンはきれいさっぱり消化され、俺は晴れて自由になれる》
明るい気持ちで俺はコンビニに走った。