気が付くと俺は病院のベッドにいた。
看護婦が言った。
『大丈夫、心配しなくてええよ。ここは病院やからね。』
泣き出した俺に看護婦さんが言った。
『僕、何歳?お名前は?』
『ゆうすけ…5さい』
『お家どこ?』そう聞かれた時俺は初めて泣いた。
『ごめんね、大丈夫。大丈夫やからね。』
そう言って看護婦が俺の手を優しくさすった。
それから警察が来て、後の事はあまり覚えてない。
ただ俺は二度と家に帰る事はなく施設へ入る事になった。
誰にも言えなかった。
あの日、嵐山へ行き母は知らない男の車に乗り俺は途中の山道で車から母に突き落とされたこと。
泣きじゃくる俺に舌打ちをした女。
あの鬼のような形相。柔らかい温かな手は氷のようで一瞬の躊躇いもなかった。
1988年、二十歳になった俺はモデルの仕事をしながら大阪で暮らしていた。