「お待ちしておりました。どうぞお乗り下さい」
男は言った。
ミユキは戸惑った。しかし、一刻も早くココから抜け出したい。
そう思い、ミユキは黙ってタクシーに乗り込んだ。
そしてタクシーは、ゆっくりと発進した。
「このたびは『株価暴落タクシー』をご用命いただき、誠にありがとうございます」
男はそう言うと、顔を横に向け、後部座席のミユキに何かを手渡した。
「どうぞお使い下さい」
男が手渡したのは、ポケットティッシュだった。
ミユキは、そのポケットティッシュを受け取り、裏返した。
ティッシュには、こんなことが書かれていた。
『ショウはもうここを離れています。――タクシーのご用命は『株価暴落タクシー』まで』
ミユキが、ハッとしてドライバーの顔を見つめると、男は顔の片方だけニヤッと笑い、前へ向き直した。
ミユキは、男に話し掛ける。
「あなたは昨夜、交差点で私にティッシュをくれた人ではないですか?」
「はい、そうですよ」
男はあっさり認めた。
「それが何故、今ここに居るんです?」
ミユキは問い詰める。
「あー『メラミン』のバイトはもう辞めたよ。そして今日から、タクシードライバーになったのさ」
男はそう答えた。