華は幾分頬を赤くさせ、ますます艶っぽくなりながら圭吾に挨拶する。
「華です。しばらくは太一さんのお家にご厄介になってます」
「圭吾です。太一とは幼なじみで。華さんと言うんですか…」
圭吾が次の言葉を発する前に太一が口を開く。
「さぁ、余り遅くなると心配するから戻ろう。また、ゆっくり来るよ。圭吾」
太一の言葉に紅は頷き頭を下げ外に出る。
圭吾は名残惜しそうに手を振った。
帰り際太一は華に圭吾の話しを聞かせた。
頭がよくて帝都銀行に就職したが身体を壊して療養中だという事や、食は細いがドジョウの柳川が大好物で太一が時々差し入れている事等、華は楽しそうに太一の話を聞いた。
「なんだか男同士の友情って素敵ね。羨ましいわ」
太一は照れ臭そうに笑った。
「圭吾はいい奴なんだ。暇だったら華さん話相手してやってよ。部屋に閉じこもってばかりで退屈してるからさ。ほら、オランダの話とか」
華は少し考え笑った。
「太一さんも一緒じゃないと。いきなり私一人で行ったらおかしいわ」
「そうだよなぁ。だけど俺、店の仕事が忙しくて中々いけないんだよ」
太一は頭をかいた。
内心、華は行けるものなら行きたかったが挨拶を交わした程度の仲で一人で行ったら図々しい女だと思われるだろうと考えた。
華の屋に付くと太一は忙しそうに風呂の湯を沸かしに行き、華は部屋へと戻った。
華の胸は圭吾を思うたびドキドキと高鳴った。
もう少し話をしてみたかったなぁ。
華は圭吾の事をもっとよく知りたくてしょうがなかった。
翌日、紅は妙と共にあやめの墓参りに出かけた。紅は華に一人で出掛けないよう言い付けた。
華は祖父の見舞いにも圭吾のところへも出掛けられなくてがっかりした。
太一は朝から宿に泊まったお客を馬車に乗せ港まで送っていってまだ帰らない。
せめて太一さんがいれば話相手になってもらえるのに。
今日から太一の弟達と尋常小学校に通い出した弟の海渡を華は羨ましく思った。
玄関の端に腰掛け下駄を履いた足を見て下駄を飛ばしてみた。
下駄は暖簾を越えて外の道に飛んでいった。