「ところでお客さん、どちらまで行ったらいいですか?」
男は尋ねた。
ミユキは『自分の町まで』と言いたかったが、所持金があまり無かった。
「あのぅ…一番近くの駅まで…お願いします」
ミユキが答える。
「あー。実はねぇ、この近くの駅は、この夏の集中豪雨で線路が土砂崩れに遭い、いまだ復旧してないんだよ。代わりに代行バスが出てるから、バス停まで行くかい?」
男は言った。
「分かりました…バス停までお願いします」
ミユキがそう言うと、男のタクシーはどんどん山道を進んで行き、とある道の途中で車を止めた。
「着いたよ」
男が止まった場所には、薄汚れたバス停の看板があった。
「ありがとうございました」
ミユキは男に代金を支払うと、ゆっくりと車から降りた。
「見つかるといいよな、ショウ」
男は静かに微笑みながら、そう言い残すと、タクシーは暗い木々の間の道を抜け、やがて見えなくなった。
ミユキは、バス停の時刻表を見た。
――無い。バスが無い。
ミユキは一瞬慌てた。
だが、その汚れた時刻表の中に、うっすらと消えかかった数字を発見した。
「16時15分」
――今14時25分。行き先は?
行き先は、完全に消えていた。