バスは低いディーゼル音を響かせながら、狭い道を抜け、ミユキの待つバス停へと向かってやって来た。
ミユキはしっかりとバスを見つめ、上部にある行き先の表示を読んだ。
『回送』
と書いてあった。
ミユキはそれでも、ためらいなく道の中央に歩き出し、バスの行く手をふさいだ。
またバスも、それに臆することなく、ゆっくりとスピードを落とし、バス停の前でキチンと停車した。
バスのドアが開き、ミユキはバスに乗り込んだ。
扉が閉まり、何事もなく、再びバスは発車した。
ミユキは、このバスがどこへ行こうとしているのか、分からない。
雨の中を、無言のバスは走り続けた。
ミユキは、バスの一番後ろに座っていた。
バスの運転手は、いまだ無言で運転を続けている。
前方からは、バスの鈍いワイパーの音だけが聞こえた。
走り始めて20分位たったところで、ようやく運転手の声が聞こえた。
「お客さん、どちらまで行かれますか?」
「…どちらまで行きますか?」
逆にミユキが尋ねた。
「海まで行きますよ」
運転手は答える。
「じゃ、それでお願いします」
ココを抜け出せるのなら、ミユキはそう考えた。