どれくらい時間が経ったのだろう。
ミユキは知らない間に疲れて横になり、眠ってしまっていた。
気が付くと、バスはすでに止まっている。
ミユキは起き上がり、外を眺めた。
――海だ。
そこは、港の船着き場らしき場所だった。
空は雨も上がり、やがて明け方になろうとしていた。
ミユキは立ち上がってバスを降りようとした。
運転席には、バスの運転手が静かに座っていた。
ミユキが話し掛ける。
「ありがとうございました。こちらで降ります」
その声を聞き、運転手は初めてミユキに向かって、振り返った。
――あら?
声の印象とは裏腹に、運転手は非常に体格の大きな、太った男だった。
表情は、サングラスをかけていて良く分からない。
――どこかで会ったような?
何となくミユキはそう思った。
ミユキが料金を支払い、バスを降りようとすると、運転手はサングラスを外しながら笑って言った。
「あまり無茶しないようにね」
そして運転手がサングラスを完全に外した瞬間、ミユキの脳裏に昨夜のホテルでの情景が、突然フラッシュバックした。
ミユキが忘れてしまっていた、ホテルでのアノ忌まわしい出来事が、男の素顔を見たことで一気に噴出したのだ。