見上げたその顔はどこか不機嫌で、きれいな灰色の瞳は茶色のサングラスの奥で光っていた。
「ったく…人がせっかくの休暇を満喫してたってのによ…」オリバーは顎の不揃いな髭を撫でながら、妙にけむくさい煙を吐いた。スラリと伸びる長身に、三十路が近いことをうかがわさせる顔つき。オリバーは血溜りの中、返り血のこびりついた墓石によりかかりながら夜空を見上げていた。空の闇に、薄茶色の髪の毛が栄える。
「休みが明けたら、あんた達とオレはまた敵同士になるわけだ。-―今度は本気で命の取り合いになる」
オリバーは、足下に倒れた警官達を見下ろして言った。煙が晴れた今、そこは月明りによって照らし出されていた。
「次に会った時はバラバラにして、空にばらまいてやるよ。それが嫌なら隠居生活にでも入るんだな」オリバーはそうとだけ言うとあくびをかきながらその場を悠々と去って行く。残されたのは闇と墓石と人の山。風の音に酷似した、かすれた呼吸の音が静かに聞こえた。
『…こちらＥ部隊……無事…か…？』
Ｆ部隊の無線機から生きている人間の声が漏れた。そして、その無線機を震えながらも確かに誰かが手にとった。
「あ…あ…確かに生きてる…頭が血塗れだが、オレは生きてるぞ…」歓喜と恐怖が入り交じった気持ちで警官は応えた。周囲からは痛みに喘ぐ声と、死の瀬戸際に立たされた呼吸の音、そして生への実感に涙を流す者が溢れかえっていた。誰しもが、酸素を必死に取り込んでいた。
「さっそく明日からマフィア相手に殺しの仕事か…ん？たばこがきれたか…」オリバーは時計を見て針が夜中の１２時をまわったのを確認する。「-―出てこいよ」誰に言うでもなく叫んだ。すると大型のマシンガンを担いだ中国系のマフィアが一斉に飛び出してきて、オリバーの周りを囲んだ。そのうちの一人の胸ポケットからオリバーが愛用しているたばこと同種のものがはみでていた。
「ちょうどいい。たばこきらしてたんだよ」オリバーは口だけで笑った。
「こっからはお仕事の時間だ。楽しくやろうぜ」
間髪入れずに彼の愛銃が火を噴いた。
→♭１へツヅク
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