知らん顔して街から出て行けばよかったのに。
「…だって…」
はっきり理由を口にすることができなかった。
「マーチならここにはいないよ」
リリィはうつ向いたままだ。ヒオは空に伸びる巨大な影に目をやった。
影に向かって走っても近づかない。
どれだけの時間が経っただろうか。
ピアニストだった時間が遠い昔のよう。
「ねぇ、あたしもつれてって」
灰色の曇った空にどす黒い摩天楼
街のビルとは比にならない。透き通るような美しさ。高い高い怪獣の触手が伸びてリリィを飲み込んだ。
流される。青い血の川。ビーズのような宝石のような。本当はもっとずっと汚ないもの。
気付くと少しだけ土っぽい手を掴んでいた。
(…あなたなのね)
さっきの圧迫感が嘘のようだ。夢を見ているみたい。
手をたぐりよせると、現れたのは
タビトだった
但しヒオの時とは決定的に違っていたのは
目を開いたまま死んでいた。